

しばしば「ステテコ」という名称について、「モモヒキ」「サルマタ」「パッチ」「ズボン下」……など、似たようなイメージの呼び方がたくさんあって、よくわからないよっ! という声を耳にします。
そもそも日本の蒸し暑い夏はもちろん、四季を通じて手放せない魅力だらけの「ステテコ」は、いつ、どこからやってきたのでしょう? なんとなく江戸時代から在りそうで、とりわけ昭和のお父さんたちが愛用していたイメージがあるものの、よく分かりません。
そこでステテコドットコムでは、そんなモヤモヤを解決するべく「これぞ、ステテコ史図」を作ってみました。これを見れば世界の歴史とともに日本の男性用の下着がどのように変化・発展してきたのか、そしてどのようにステテコが生まれたのかがスッキリとわかりますよ。

もともと「モモヒキ」は室町時代ごろに「股はばき」が派生して現れたとされる男性の下半身用の衣類です。図の絵のように、左右別々に仕立てられた筒に脚を通し、それらを腰で結んで穿くタイプでした。
江戸時代に農民や町民たちの労働着として一般化し、京都や大阪には「パッチ」と呼ばれる、丈がアレンジされたバージョンも現れます。ちなみに活発に動かなくても暮らしていけるご隠居や和尚、年寄りなどには絹のモモヒキが、忙しく仕事をしなければいけない労働者には木綿のモモヒキが用いられていました。
明治時代に入ると文明開花によってモモヒキは大きく2分化します。かたや洋装(そのころすでに欧米は下着の大量生産が可能となっていた)の影響を受けてパンツ化し「サルマタ」と呼ばれ、もう一方では夏向けの縮(ちぢみ)素材で作られたものが「ズボン下」として人気を博し、ステテコの原型となって行きます。
そして1880(明治13)年ごろ、上方落語会・珍芸四天王のひとりである「三遊亭円遊」による白いモモヒキをあらわにした「ステテコ踊り」が大ヒットしたことで「ステテコ」の名が巷に広まり、かつてモモヒキのアレンジ版だったパッチのその後も吸収しながら、一般名として認知されていきました。

「フンドシ」はひも状、おび状の布を腰に巻くという原初的なスタイルまでさかのぼれば、紀元前3000年頃の古代シュメール文明やエジプト文明など、世界中の民族に見られます。日本においては『古事記』(712年)や『日本書紀』(720年)に初出と思われる記載があり、世界分布的に暑い地域で好まれた衣類であることから、ミクロネシアやインドネシアなどから伝わったのではないかという説もありますが、定かではありません。
江戸期には約1.8mの長さでしっかりと腰に巻き付ける「六尺褌(ろくしゃくふんどし)」が労働者に好まれ、その約半分の長さの布に紐をつけた「越中褌(えっちゅうふんどし)を医師や老人によって用いられたそうです。
明治時代になると、経済的なこともあってその「越中褌」が軍隊によって成人男性に指導され、太平洋戦争終了時まで日本男児の下着として全盛期を迎えます。簡単に着用できて衛生的でしたが、愛国心の高揚も目的だったそうです。
戦後は西洋からのブリーフやパンツが徐々に若者たちに人気となり、フンドシも根強い保守派から支持され続けたものの、時代とともに徐々に姿を消していきました(もちろん今でも愛用者はいらっしゃいます)。
このようにして日本でフンドシが主だって穿かれた「フンドシ期」は、700年代初期から1900年代の太平洋戦争後まで、なんと1200年あまりも続いた圧倒的ロングヒットを誇る名下着でもあるのです。

1853(嘉永6)年のペリーさん率いる黒船来航に始まる文明開花の波に押され、日本人の下着事情もどんどん変化していきます。男性においては大正時代にサルマタやパンツの一時的な流行も起こりましたが、戦争による愛国機運の中でフンドシが主役の座を譲りません。
また国内の手工業や繊維業が、海外から次々と入ってくる安価な品々に窮地に追いやられ、危機感を持った政府は国内生産増強を目的とした官営工場を次々に設立。大阪を中心に近代設備をそろえた紡績会社がたくさんできていきます。
戦時における軍服の生産によって拡大、発展した側面も確かにある日本の下着製造ですが、戦後になると自由の国アメリカの生活文化がどんどん入ってきて、若者を中心にブリーフやトランクスが主流となっていきます。現在では1990年代に登場したフィット感の良いボクサーブリーフが人気です。

このように進化をくりかえしてきた男性用下着ですが、未来にはどうなっていくのでしょうか。日本だけでなく世界中で下着が大きく変わったのは産業革命と戦争による影響ですが、しかしもう二度と戦争を起こしてはいけませんし、産業的視点から自然環境への配慮もますます重要です。
またこれまでは男性用、女性用と性別で分かれているのがあたりまえのことでしたが、未来はそれだけではないジェンダーについても理解が広まっていくでしょう。そのような未来を見据えて、守るべき日本のものづくりと産地や、職人の技術や文化に敬意を払いながら、ユニークでリラックスできる上質なウェアとして、ステテコドットコムはこれからもステテコを作り続けていきます。
<主な参考文献>
青木英夫著『下着の歴史』雄山閣出版 1973年
青木英夫著『下着の文化史』雄山閣出版 2000年
越中文俊著『男の粋!褌ものがたり』心交社 2000年
よこたとくお著/池田孝江監修『まんがで学習 おもしろパンツ物語』あかね書房 1994年
辻原康夫著『服飾の歴史をたどる世界地図』河出書房新社 2003年
小泉和子著『昭和のキモノ』河出書房新社 2006年